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時の言葉
Word at time

2022年4月 大 乗 思 想

既成、新興を問わず日本における仏教の信仰形態は大乗を軸として動いているようである。大乗のそれは、仏果は人々と共にあるのだから、まず人々を救い、衆生と共に理想に至らしめる、としている。自分が救われたいなら、その前に人々を救え、人々を救うことによって自分も救われるという思想のようだ。大乗は、いわば菩薩行のそれであるかのようである。

 

大乗の思想は竜樹(ナラルージュナ)によって伝わった。彼は中インドに生を得、後年、彼は彼の好みにしたがって仏教を取捨選択し、あたかもそれが仏教の本道かのようにまとめた。今から約千九百年ほど前のことである。それまでの仏教は、釈迦滅後、第一次、第二次の結集が行われ、第二次結集の際は、口伝えの仏法が文字に書き遺された。第二次結集はアショカ王時代である。竜樹の大乗はこの時の仏伝を彼なりにつくりかえ、今日の大乗経典といわれるもとになった。

 

さて、正法は大乗思想が本流であろうか。仏果は人々の救いのうちにあるのであろうか。仏国土は人々の調和にあるが、人々の調和は個々の調和の集合によって達成されるものではないのか。己自身の調和がなければ、仏国土の実現は画餅になってしまうだろう。人類は個人の集まりである。人類の調和は一人一人が目覚めることにある。一人一人が自己を悟り、心の王国をつくり出すことである。病人を治すには、まず自分自身が健康であり、病気に精通していなければ、病人を救うことはできまい。心についても、己自身の心の王国が確立されていなければなるまい。正法の根本は八正道である。八正道は己の心を中道という調和に引き戻す神の規範である。その規範に、無理がなく、心が自然についていける自分自身になった時に、人は初めて菩薩の行が整ってくるのである。八正道も知らず、心の調和も為し得ない者に、どうして菩薩行が成し得よう。不安と混乱を巻き起こすのみである。現に、その仏教は死文と化しているではないか。理屈はあっても光がない。救いなどなおのこと。一部の仏教となって、衆生の迷いは少しも解消されていない。

 

八正道は小乗であって小さな悟りといわれているが、正法には小乗も大乗もないのである。悟りの根本は己自身である。己自身は小宇宙であり、小宇宙が大宇宙に広がった時に個と全の統一が自覚され、個の中に全が含まれていることを知るのである。全の中に迷える一部があるとすれば、それを救い得るものは個の悟りしかないのである。

 

人の心は偉大である。地球よりも重く、大きい。その偉大な心を自覚するためには、神の規範である八正道を行じるしかない。 大乗思想に迷わされてはならない。

 

(一九七二年七月掲載分)

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