(前号より)
家庭の中においても、夫から言われたことに対して妻がおもしろくないと感情的になったり、また逆に夫が感情的になったりしていますと、家庭は不調和になってしまいます。まずお互いが相手の心になり、相手が何を言っているのか、何を思っているのかを考え、心の中で補いあって生活をしてゆくときに、小さな社会である家庭というものが調和されてゆきます。嫁姑の問題でも同じです。
そのように私たちが煩悩を菩提としてゆくような生活行為をしたならば、その結果は確実に出てまいります。それゆえに私たちは、まず豊かな丸い心を作ることなのです。それには、自己を中心とするのではなく、たとえ相手が間違ったことを言っていたにしても、自らの心を見つめ心を調和してから、その人の間違いについて話しあうことが大切です。相手が感情的になったならば、一歩下って相手の心の中に調和を与えてくれるよう祈るだけの心の広さが必要です。
私たちはよく我慢というものをします。我慢というのはよくありません。我慢する心の裏には必らず次に攻撃に出る準備ができているからです。我慢するのではなく忍辱することです。忍辱というのは、たとえどんな恥かしめを受けても、それに耐えて、己の心の中に毒を食わないことです。
たとえば、第三者から大衆の前で恥をかかされ歪みを作ったとします。するとそれは相手に言われたことで心に毒を食べたことになります。毒を食べて、自分に反撃するだけの力がなければ、我慢をしようとすることになります。我慢をしようという心は、次に反撃に移る機会をうかがっているものなのです。そこで、相手からどのようなことを言われても、耐え忍んで、「よし、相手がそこまで言うのなら、私は絶対その毒を食べないぞ」と心に決め、言われたことを心に入れず、脇において置く位の心の広さが大事になってきます。
私たちはまず余裕を持つことです。焦ることはありません。相手の言ったことを、八正道というフィルターにかけ、それを通して正しく物を判断することが大切なのです。
煩悩を菩提とする為には、私たちの見たり聞いたり思ったりすることの一切合切を八正道というフィルターにかけて、自分自身の心を広く豊かに作ってゆくことが大事です。
太陽は無所得で私たちに熱と光を与えてくれています。すべての自然環境もまた、私たちに生活のできる場を与えてくれています。それにもかかわらず、太陽も自然も決して請求書を出すようなことはしません。最近は電力会社で、一割節電とか二割節電ということを言っています。そうなると必然的に私たちの所にも負担がかかってきます。物価も値上りします。物価が上昇すると買い占めということがよくおこりますが、それはその環境に住む人たちの心が足ることを忘れ去っているためにおこるのです。買い占めをやるような人びとは、やがてこの地上を去るときに精算をさせられます。私たちは、金がすべてではなく足ることを知ることが大切なのです。
真の調和された世界というものは、まず心が完成され、人生の目的と使命を知り、健康で、さらにまた、衣食住という三つのものが調和されない限り、完成されてはゆかないのです。
現代の宗教の中には、宗教と科学は別ものである。人間は神様に一生懸命祈れば救われるのだ、と説いているものもあるようですが、このような考えはいずれ訂正されてゆくでしょう。宗教と科学は本来不二一体のものなのです。
人類は地上界での長い年月を通して、物質経済社会という一つの業を作ってしまいました。私たちはその環境の中で、どのようにして調和された社会を建設していったら良いのでしょう。それは決して闘争や破壊の中から生まれるものではないのです。もし闘争や破壊の中から権力を握ったとしても、やがてその者たちは反作用を受けます。暴力によって滅んでゆくのです。
原因と結果は自然の法則であり、神の心だからです。私たちはそのようにして、調和された豊かな心を持って、思いやりに溢れた社会というものを作り出してゆかねばなりません。
現代のようにインフレーションやデフレーションといった問題がおこるのは、人間自身の業が作り出した不調和によるのです。それが現象となって現われるところに現代の経済機構の特徴があります。真の経済機構というものは、そのようなものではありません。お互いにすべて平等であり、調和と安らぎのある社会経済機構というものを、私たち自身が、己自身を反省し、相互関係の中で正しい生き方を考えていく中から作り上げていかなければならないのです。
私たちは現実の緒事象の中から人間の本来のあり方を探り出すことが大切です。そして、それには自己保存を捨て、あたかも太陽の如く偉大なる光明を満たすように、そして、それに対する実践、行動というものが大事になってきます。一人一人の心を調和し、足ることを知り、多くの人びととともに調和された環境を作ってゆくことです。これが大事です。たとえ小さな種子であっても、やがて多くの人びとの心の中に、光明となり調和となって広がってゆきます。私たちは完全に調和された世界の完成へ向って進んでゆくものたちなのです。
いま、私たちは資本主義と社会主義といった両極端な環境の中で、厳しい試練に直面しています。それも長い歴史の中に作り出した結果なのです。しかし、やがて人類はこの地上界を真のユートピアに創り上げてゆくことでしょう。それにはまず勇気が必要です。勇気と知恵を持ち、溢れ出る情熱をもって進んで行きたいものと思います。
(終わり) (昭和48年11月11日、大阪での講演の要旨をまとめたものです。)